川原の小石や小さな宝石から知る大地の歴史

当日レポート

  • 日時:2021年11月7日(日)10:00〜12:30
  • 場所:奈良県室生口大野 宇陀川左岸
  • 講師:上村剛史(元海城高校地学教諭)
  • 参加者:参加者12名

レポート

本日の実習目的について、川原に到着したところで上村先生による実習開始です。
まずは、川の地形に関する基本的な知識の説明がありました。宇陀川は、奈良盆地の東を迂回するように流れて、木津川へ合流します。そして、川の流れていく方向(下流)を基準にするので、今日の実習場所は左岸であることを確認しました。

次に、川原の岩石の観察方法などについて説明がありました。
川原の岩石は上流の地層が崩れて川を流れてきたものです。そして、石がぶつかり合って細かくなり砂になります。これらの岩石や砂の観察を本日は行います。

川原でみられる岩石を手に取って、見た目が似た者同士のグループにしながら,できるだけたくさんの種類の岩石を集めましょう。川原の岩石は乾燥すると表面の様子がわかりにくくなるため、観察するにあたり、水をかけると岩石の模様がわかりやすくなります。

早速、似たような岩石同士を集める参加者の皆さん。

それぞれが持ち寄った岩石を見ながら、似ているものをグループにしていきます。たくさん集まってきたら、まだないグループを探していきます。

では、集めた石を改めて皆さんで観察・比較します。岩石名の細かな判定は難しいため、大まかな特徴から火成岩,堆積岩,変成岩くらいまで分類できれば十分です。ここでは岩石の特徴とでき方をお話ししました。そして、この地域の地質や地史が岩石から読み取れることをお話ししました。

こちらは室生に特徴的に現れる岩石です。鉱物の入った模様がすじのように伸びています。この理由は、この岩石が火山噴火時に高温の火砕流として堆積したためです。堆積時に、中の鉱物が高温のために溶けてつぶれ、その後、岩石が冷えるとともに固まったため、このような模様ができたと考えられています。よく見ると、火山ガスの気泡のあとらしき、隙間もみられます。

次は、砂の観察を行います。実際には砂になった鉱物の観察です。川原の砂は、一緒に転がっている岩石で同じように、川に流されてきたものなので、上流の地質を反映しています。鉱物は色の違いだけでなく、それぞれ比重が異なるため、碗かけという方法で鉱物を分けることができます。本日は、この地域に特徴的にみられるガーネット (ザクロ石)という鉱物を分けてみます。ちなみに、ガーネット は1月の誕生石です。

上村先生が碗かけを実際に行って例を見せます。

集まったガーネットを観察する参加者。

こんな感じ。赤いガーネットがわかるでしょうか。

では、参加者も早速碗掛けを開始します。

作業しながら、ガーネットが集まりやすい地形的な場所についても説明がありました。ガーネットは石英や長石よりも密度が高いので、川が増水した時などに勢いよく運ばれ、川の水位が下がって流れが落ち着くと取り残されることにより、自然による鉱物の選別が行われます。そのような場所を探すとガーネットの割合が多くなります。

何気なく歩いている川原でも注意深くみていくと、大地の歴史を知り、岩石や鉱物の見た目や密度の違いを知ることができるのですね。本日は紅葉の綺麗な中で実習を行うことができました。

講師からのメッセージ

本日は、ご参加いただきありがとうございました。

週間天気では雨のマークも出ていましたが、晴れ間もあり、紅葉をはじめ景色も美しい気持ちの良い実習になりました。そして、晴れ間の太陽光は、岩石や鉱物の輝きを増してくれます。難しいことはともかく、ガーネットをはじめとした、鉱物や岩石の美しさや模様の面白さを感じてもらうことが一番大事だったかなと思います。

それに加え、とても熱心に岩石を観察し、鉱物を探してくださったことで、岩石や鉱物がより身近になったかと思います。地学分野では、こういた野外での体験がとても重要ですが、学校教育では、時間や安全性、経済的な理由で実施が難しい現実があります。実際に、野外で出てみて見聞きすることで、同じ景色から見える世界が変わってきます。何人かの方から参加前後で、見える風景が変わったとおっしゃっていただけました。これが野外観察によって、自然から読み取れる情報が増えたということだと思います。

川原に転がっている何の変哲もない岩石や砂から、その地域の地史が読み解けることも、理解していただけたと思います。ありがとうございました。

内 容 紹 介

奈良県宇陀市の川原でガーネットや石ころを観察し、土地の歴史や祈りについて知ってみましょう。 

【概要】
方法:実習後に動画公開予定。(参加者募集は行いませんのでご了承ください。)


【講師プロフィール】
上村剛史
元海城高校地学教諭。第46次日本南極地域観測隊越冬隊・地学(2004年11月〜2006年3月)。長年の指導の中で、多くの生徒たちを地学オリンピックに参加させてきました。

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